古今和歌集に、
「色よりも香こそあはれと思ほゆれ誰が袖ふれし宿の梅ぞも」という歌があります。
この宿の梅は、どんな高貴な人の袖の香りが移ったのかというくらいよい香りがするということなのですが、
日本は、身体に香りをつけるというよりも、香りを衣服や髪に移し、移り香を楽しむ傾向にあったように思います。
こちらの匂い袋「誰が袖」も、その移り香を楽しむものだったのでしょう。
「誰が袖」は、室町時代に流行した匂い袋で、2つの袋を紐で結び、首にかけ、その袋を着物の袂に入れて香りを楽しむものでした。
匂い袋は、天然のものだけで調香すると、そこにあるだけでは、そんなに強く香ることはありません。タンスの引き出しやカバンなどなら、開けた瞬間、その空気の流れでふわっと香るものです。
袖の中に入ったこの「誰が袖」も、ずっと香るのではなく、手を動かしたときなど、何かの拍子にふわっと香りが漂ってきたのでしょう。
その方がやってくる時に、何気なく香り、去る時にもほんのり香りを残す。そのさりげなさが人気を呼んだのかもしれません。
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